日本の魅力を発掘するだけでなく、他国の環境・法律・文化などを見て、いかに日本が素敵な国かを見直すサイトになります。
「プリティ・ウーマン」(1990年公開)では豪華ホテルのスィートルームのお風呂の中で、ジュリア・ロバーツがカセットテープウォークマンを聴きながら目を閉じて歌っています。「白馬の王子様」役のリチャード・キアがそれを見て微笑みます。
「フットルース」(1984年公開)ではロックンロール音楽を聴くのが禁じられているという田舎村に来てしまった爽やかイケメン青年のケビン・ベーコン(彼はかつてはアイドル俳優でした)が一人でいつもウォークマンを聴いて踊っています。
「ターミネーター」(1984年公開)ではヒロインのサラがウォークマンのマイクロフォンを使い会話をしています。
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(1985年)ではタイムマシーンデロリアンに乗ったマイケル・J・フォックスが過去にトリップしてしまうのですが、自分は1985年の人間なんだ、という心のよりどころ?として真っ赤なウォークマンを聴いています。
80年代の多くの超大ヒットハリウッド映画にもウォークマンは大事なアイコンとして登場します。1979年にソニーが第一号となる「TPS-L2」を発表し、1983年には第二号の「WM-20」、さらに1985年にはさらに進化させた「WM-101」を発売しました。
その音質のクオリティの高さはそれまでなかったレベルのもので、かつ「音楽」を腰にぶらさげて持ち歩けるというのは夢のような事件でした。当時は世界中でウォークマン大旋風を巻き起こしたものです。
しかし、今から約35年ほど前に世の中の人々がウォークマンに夢中になっていた事、そしてそもそもカセットテープというものを今の世代の子どもはよく知らないのです。
イギリスに住む13歳のスコット・キャンベル君も(イギリス)もデジタルオーディオプレーヤー世代で、少年の場合はカセットテープウォークマンを見たこともありませんでした。
ところがある日、少年のMP3プレーヤーが突然壊れてしまいます。しかし音楽は聴きたいー!困っているとお父さんが昔の古いソニーのカセットテープウォークマンを渡してきました。
「すごく大きいんだけど」お父さんは申し訳なさそうに言ってきましたが、スコット君は「文庫本(*キンドル電子本を指しています)のサイズと同じじゃないか。」とそんなに大きいとは感じませんでした。
お父さんはMP3プレーヤーとサイズを比較したので、カセットテープウォークマンを「大きい」と表現する言葉が自然に口から出ました。しかしスコット君にはこれとMP3はまったく別物にしか思えなかったので、二つを比べて考えるという発想を持てなかったのです。
少年はカセットテープウォークマンを再生してみて、すぐに「ノイズ」に気が付きます。MP3プレーヤーにはまったくノイズが入っていないのですが、こちらでは確かにかすかにテープが回る音が聞こえるのです。
この世にウォークマンが登場した時は、全世界の人間が今まで聴いたこともない美しい音に感動したものでしたが、MP3プレーヤーで音楽を聴いてきた新世代のスコット君にはウォークマンの音が良いものとは感じられませんでした。
透明の蓋の外から再生中のテープが回っているのが見えるのにも不思議でした。そしてテープが絡まってしまうことがあるというのにもぽかん…。電池で電源が入ることにも驚きましたが、わずか3時間ほど再生し続けるともう電池が消費されてしまい新たな電池に替えなければならない煩わしさにもびっくり。
ヘッドフォンを2台接続でき2人で同時に 音楽を聴くことができる、という気が効いていることには感心しました。(*初代モデルのみ)Ipodは別にアダプターを購入しないと、友達や恋人同士で同時に同じ曲をシェアすることができません。
A面とB面に分かれており、曲の続きを聴くのにカセットテープを裏にひっくり返して再生し直さなければならない、ということに気が付くのには3日かかりました。
そして「メタル/ノーマル」のスィッチが何かということに分かるのにも時間がかかりました。カセットテープは一種類ではなく安価の酸化鉄のノーマルテープ(Normal TypeⅠ)、とちょっぴり値段が上がるハイポジション(別名はクローム。TypeⅡ)そして一番値段が高いメタル(ピュアな鉄)と種類がありました。
それぞれのテープを再生するのにテープレコーダー(ウォークマン)のポジションをスイッチで切り替えをするものだったのですが、当然スコット君はそんなことなど知りません。またスコット君は曲順を変えようとシャッフルさせようとしそのスイッチを探しましたが、どこにもそれがないので、随分首を傾げて考えこんでしまいました。
このカセットテープウォークマンを腰にぶら下げて外を歩いてみました。想像以上に注目されました。誰もがきょとんとしあっけに取られてスコット君を見つめたのです。友達には大笑いされ馬鹿にされました。「(MP3プレーヤーと違って大きくて重いので)それだと紛失しなくていいんじゃない!」とにやにやして言われたりもしました。
この「奇怪な箱」を自分たちの両親もかつてはクールだと思って持っていたなんて、誰も知りませんでした。学校の先生はカセットテープウォークマンを見てハッとしとても懐かしそうな顔をしてみせました。
自分の壊れたMP3プレーヤーが直るまで一週間このアンティークテクノロジー製品を使用し続けました。
結果としてこれをずっと愛用していきたいとは思わないけれども、過去にはこういう製品があり、当時はこれが最新で様々な過程を踏んで今のMP3プレーヤーやipodといったデジタルオーディオプレーヤーが誕生したんだ、ということに気が付く良いきっかけになったのはとても良かったと思っています。
確かにスコット君の言うとおりソニーのカセットウォークマンが生まれたからこそ、現在のデジタルオーディオプレーヤーが出てきたのでしょう。
かつて全世界が崇めたソニーのカセットテープウォークマンを通し、まだ13歳の少年がテクノロジーも進化してきたものなのだ、と生まれて初めて考えるいいきっかけになったことは興味深いものがあります。
もしウォークマンがただの古いガラクタにすぎないものだったら、いくらなんでもスコット君はどんなに困っても1週間も使用し続けなかったかもしれません。そしてテクノロジーの近代史に思いをよせることもなかったかもしれません。
数十年後の未来の少年少女に同じように深く何か物事を考えさせるようなきっかけになるものをぜひまたメイドインジャパンに頑張り続けて貰いたいものです。
この記事を通して色々なコメントが寄せられました。通常とは異なるのがほとんどのコメントが長いこと。そうなのです、カセットテープウォークマンの話になると大人はみんなつい熱くなってしまうのです!
蛇足ながらさらに興味深かったのが、スコット君はBBCにこの自分のウォークマン初体験の文章を寄せ、BBCサイトで人々は純粋に「ウォークマン」についてそれぞれの想いを語っています。ところがアメリカのニュースサイトに転載され紹介されると、アメリカ人たちはウォークマンに対する意見だけではなく
「スコット君の文章力がすごい。イギリスの子どもはあんなに作文能力があるのか。本当に自分で書いたんだろうか」とこちらに議論が展開されていったことです。単語の使い方もイギリスとアメリカでは異なることがあるので、その議論にも花が咲きました。
今回は論点がずれたそれらのコメントではなく、ウォークマンそのものにまつわることが書かれたコメントのみご紹介いたします。
ちなみにそのガールフレンドとは現在の私の妻だよ。僕たちの3人の子どもはipod/iphoneで音楽を楽しんでいるけど、僕と妻がウォークマンに対して抱いたような気持ちや思い出をipod/iphoneがあの子たちに与えてくれるのだろうか。無理だと思う。
だけどだからこそ本当にいい曲だけを選んでテープに収めていたし、ひとつの音楽アルバム全部を聴くという辛抱強さを持つことを教わった。そしてアルバム全部を聴くことを強いられたおかげで「隠れた名曲」を発見することもあった。今はそれが全然ない。残念だ。
ところがその子が私の耳にヘッドフォンを付け再生ボタンを押してくれた後の興奮といったらありませんでした。それまで耳にしたことのない最高の音だったんです。この時聴いた歌が何だったのかはっきりと覚えています、マイケル・ジャクソンのWanna be starting somethingでした。
マイケルの歌声をあんなにはっきりと聴いたのは本当に初めてで感激しました。こんなに美しいサウンドがあるのかと子どもながらに強く感動したものでした。
(参考)http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/magazine/8117619.stm
http://boingboing.net/2009/06/29/13-year-old-kid-revi.html
ウォークマンを知っている世代から見ると、ウォークマンを不思議と思えるのが面白い。そのうちMP3プレイヤーも同じように不思議られる時代が来るのかと思うと、技術の進歩が待ち遠しく、日本に限らず世界中の企業に驚かせてもらいたい。